裏切られることは最高の楽しみ。―ピエール・ルメートル「その女アレックス」
電子書籍ではなく、紙の本で読みたい本というものがある。装丁がとってもきれいなものとか、そういう本は色々あるけれど、僕にとってミステリ本は間違いなくその中に入る。理由は、これから自分が裏切られることが物理的に証明されるから。ある部分まで読んで、事件の全容が見えたかと思わされる。しかし、ページを押さえる左手の下には、まだまだたくさんのページがある。これからどんな展開が自分を裏切ってくれるのか―その期待感がたまらないのだ。
そういう意味で「その女アレックス」はたまらない。真実の間をなんどもなんども転がされてくような感覚。まるでピンボールのように。
誘拐監禁されたアレックスという女と、その事件を追うパリ市警のストーリーなのだが、謎めいたアレックスというキャラクターに対して、単純明快はっきりしたパリ市警の4人組が対照的で楽しい。チビで皮肉屋のカミーユ、デブで仲介役のル・グエン、金持ちで教養豊富なルイ、貧乏でケチなアルマン。まさに凸凹コンビ(いや、カルテットか)だが、全員極めて有能なのでご心配なく。
起こる事件は気持ちが良いものではないから、4人組が繰り広げるドタバタコメディー・・・とはさすがにいかないが、表紙のおどろおどろしさに比べるともっとライトに、楽しく読める本のはず。
ただし、読むなら徹夜の心構えだけはお忘れなきよう。